翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2012/02/09
ビタミンCについて

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

私たちにとって必要なはずの酸素は、時には活性酸素に姿を変え、体を構成するいろいろな成分をラジカルというナイフでずたずたと傷つけていくことがあります。それが原因で肌の老化が進行したり、ガンや心臓病をはじめとする難病になったりすると考えられています。

ビタミンCは体内のいたるところに常駐していて、コラーゲンや各種ホルモンの合成、メラニン生成の抑制など、特に酸化還元反応(oxidation-reduction reaction)が関わっている過程で重要な役割を果たしています。その一方で、ナイフを持った酸素が出現したときには、すぐに保安官として活躍します。ビタミンCは還元活性が強いので、自分の持っている電子を渡して相手を無毒化する一方で、自らラジカルになります。つまり結果的に相手のナイフを取り上げてしまうわけです。体内にはラジカルになったビタミンCを元に戻す機構があるので、フリーラジカルのように害にはなりません。清涼飲料や食品に添加物として入っているビタミンCも酸素を監視することで、鮮度や風味保持、変色防止の役割を果たしています。

ほとんどの動物は体内でビタミンCをつくることができるのに、ヒトは自分でつくることができません。それは必要な合成酵素がないからです。ですから私たちは食べ物から摂取する必要がありますし、摂取しなければ欠乏してしまいます。でも、少々野菜嫌いだからといって、ビタミンC欠乏が深刻になることはまずありません。なぜなら、生体内のビタミンCはなくなりにくいからです。健康な人の場合、代謝回転するビタミンCを正常レベルに保つには、1日30〜50ミリグラムの摂取が必要だとされています。ちなみに日本人の栄養所要量は成人1日50ミリグラムとされています。

ではそれ以上、いやもっと過剰にビタミンCを摂取するとどうなるのでしょうか。体内には1.5グラム以上のビタミンCは蓄えられないとされていますので、これを超える量は、尿として排出されてしまいます。ビタミンCをたくさん食べることが風邪やいろいろなストレスに対して効果があるという報告があり、健康志向ブームも手伝って過剰に摂取する傾向があります。しかし本当のところ、大量摂取の効果についてはまだ定説がありませんし、余ったビタミンCは体内に蓄えられないことを考えると、その効果には疑問の余地が残ります。重大な毒性はほとんど知られていないため、たくさん食べることが命取りになることはまずありませんが、酸性尿(aciduria)や下痢(diarrhea)といった症状が報告されていることから、「過ぎたるは及ばざるが如し」と考えたほうが無難かもしれません。

最近、不整脈(arrhythmia)などの難病治療に役立てようと、新しいビタミンC薬が開発されつつあります。また、医療や医学分野で用いられる放射能を発信器としてつけたビタミンCを開発して、活性酸素の犯行現場を突き止める新しい診断法の可能性が模索されています。添加物や栄養素としておなじみのビタミンCは、最新医療の分野でも注目されているのです。


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