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2009/11/18

メジャーリーガーとインベストメントバンカーの高額報酬

金融翻訳、心理学翻訳担当の山田です。

サルコジ仏大統領の巨額報酬規制発言を発端に、 9 月 5 日の G20 財務相・中央銀行総裁会議でも取り上げられ、 9 月 24 日から始まる G20 金融サミットでも共同声明に盛り込まれる可能性がある金融機関の高額報酬の問題をメジャーリーガー高額報酬と比較しながら考えてみることにしましょう。

現在のメジャーリーガーで史上最高の報酬契約をしているのがヤンキースの A. ロドリゲスの 10 年 2 億 5200 万ドルで、年棒としては 20 億円を超えています。松井秀喜が 13 億円、イチローは 17 億円の年棒を貰っていると言われています。ところが、米国の金融界では、 100 億円の年棒を貰う商品トレーダーが出たとか、 10 億円を超える年棒を貰う CEO やトレーダーが数十人はいるのではないかなどの話が流れています。最近はあまり聞きませんが、一時は日本でも、数億円のボーナスを貰った外資系金融機関に勤めるトレーダーやオフィサーの話を頻繁に聞いたものです。

何故、金融機関がこのような一企業の利益にも匹敵するような高額報酬を払うことができるのか、メジャーリーガーの報酬システムと比較しながら検討してみましょう。メジャーリーガーの報酬でニュースの見出しになるのが「契約期間○年、総額○○万ドルで契約」です。この内訳は、契約を結んだ時のボーナス (signing bonus) を含む 確実に貰える最低の金額 (guaranteed compensation) であり、この中に、成績に応じた「出来高ボーナス (performance bonus) 」や球団が延長オプション (extension option)契約を破棄した時の「違約金 (by out) 」などは含まれていません。つまり、 契約を途中破棄しない限り、球団側にはその年棒の支払が確実に発生します。つまり、この報酬システムは、選手の過去の実績や貢献度から、将来の報酬を設定し保証するものであり、その契約期間の活躍には関係のないものです。

一方、金融機関の報酬システムは、確実に支払わなくてはいけない基本給 (basic salary) を非常に低く抑え、出来高ボーナス (performance bonus) の部分が大きく、ある意味、その成果によってはボーナスが無限大に膨らむ可能性のあるものです。例えば、 10 億円を貰ったトレーダーの年棒の内訳を一般的な報酬システムから憶測してみましょう(もちろんこれはあくまでも仮定で、実際にはもっと複雑ですが)。

基本給 (basic salary)1000 万円、

出来高ボーナス (performance bonus)9 億円、

接待・交通費 (entertainment & travel allowance)9000 万円

合計で 10 億円。

この内訳のベースとなる契約上の計算式は、基本給は固定、出来高ボーナスは対象トレーダーが貢献した銀行の利益( 30 億円)の 30% 、接待・交通費は銀行の収益の 5% 、ないしは 9000 万円の少ない方、のようになっています。つまり、銀行には 10 億円の報酬を払っても、差し引き 20 億円が残ることになります。もし、このトレーダーが全く利益を上げることができなくても、 1000 万円の基本給の支払いだけで済むのです。(もちろん、トレーダーが損を出した時には、その損をトレーダーに請求することができず、その分は損金として銀行が負担することになるので、トレーダーには厳しいロスカット規制 (loss cut rule) を課すのが通常です。)一方、接待・交通費は、例え上限が設定されていても、トレーダーにとっては所得税の対象にならないという大きなメリットがあります。実際、トレーダーは接客をすることはほとんどないのでこの率は低いが、 M&A などを担当するオフィサーの場合などは、この率が 10% になることもあります。そのため、 50 代の事務方 (back office) の部長クラスがエコノミーやビジネスクラスで出張している銀行でも、 20 代や 30 代の若手のトレーダーやオフィサーがファーストクラスに乗るなんてことがよくあるのもこの仕組みのためです。

最後に、メジャーリーガーと金融機関では、その報酬の支払方法の違いもある。メジャーリーガーでは、その高額年棒の大部分を年金の形にすることが多く、選手は 10 億円を毎年貰うわけではありません。一方、金融の世界では年 1 回か 2 回(最近は四半期ごとの支払いもあるようです)ボーナスを払うことが多いです(日本のように退職金の税率や控除額が有利な場合には、何年か貯めておいて、退職時に退職金として支払うこともありますが)。そのため、優秀なトレーダーやオフィサーがボーナスの支払日の翌日に別の銀行に引き抜かれてしまったなんてこともよくある話です。