以下に特許明細書の一例を挙げてみます。 特許公表2004−518431の特許請求の範囲の一部です。「特公表」とは、特許の「国内公表」の意味であり、特許協力条約 (PCT) の国際出願として外国で英語等により出願され、これが日本の特許庁の審査を受けるために日本に国内移行され、その内容を公にするために、翻訳文を公開するという制度です。以下に挙げる特許出願もこの制度によるものであり、請求の範囲、明細書は、外国で出願されたものです。具体的には、米国会社により英語で米国特許庁にされた出願であり、これが日本語に翻訳されたものです。
したがって以下の明細書は訳文であり、これに対応する原文(英語)があります。これは、WO2002/047488号という英語で米国特許庁に出された PCT による国際出願です
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に高解像度プリントイメージを有するチョコレート菓子であって、チョコレート基層、該基層の表面の少なくとも一部に配された全体的にほぼ白色または明るい色の食用イメージ基体コーティング、および該イメージ基体コーティングの少なくとも一部に食用黒色または着色インクの少なくとも1つを沈着させることにより形成された前記プリントイメージを有することを特徴とするチョコレート菓子。
【請求項2】
前記チョコレート基層が、ミルクチョコレートまたはダークチョコレートであることを特徴とする請求項1記載のチョコレート菓子。
【請求項3】
前記食用イメージ基体コーティングが、約 0.01mm から約 0.2mm の範囲の厚さを有することを特徴とする請求項1記載のチョコレート菓子。
請求項2と3は、従属項 (dependent claim) といい、独立項 (independent claim) である請求項1に従属するものです。請求項2は、請求項1の「チョコレート基層」がミルクチョコレート等であるというように、更に詳しく説明しています。これは「チョコレート基層」がたとえばどのようなものか限定している、ということにもなります。
請求項3は、「食用イメージ基体コーティング」の寸法(約 0.01 〜 0.2mm )を特定しています。
このように特許請求の範囲では、独立項と従属項がありますが、なぜこのように独立項と従属項を立てるかというと、独立項において「チョコレート基層がミルクチョコレートである」とか、食用イメージ基体コーティングの寸法を記載してしまと、それに限定されてしまい、第三者が少しでも異なる材質のチョコレート基層や異なる寸法の食用イメージ基体コーティングを実施すると、特許の範囲に入らず侵害とはならないからである。
したがってこのような限定が何もない独立項1を立てておき、そのなかの一つの構成要素について、それ以下の従属項で詳しく限定しています。したがって第三者がさまざまな寸法の食用イメージ基体コーティングを備えたものを実施すると、請求項1で侵害といえることになります。
特許請求の範囲の翻訳は英語の文体、構文などが非常に特殊です。
(訳例)
【請求項1】
表面に高解像度プリントイメージを有するチョコレート菓子であってチョコレート基層、該基層の表面の少なくとも一部に配された全体的にほぼ白色または明るい色の食用イメージ基体コーティング、および該イメージ基体コーティングの少なくとも一部に食用黒色または着色インクの少なくとも1つを沈着させることにより形成された前記プリントイメージを有することを特徴とするチョコレート菓子。
「表面に高解像度プリントイメージを有するチョコレート菓子であって」という部分をまず訳してしまいます。「であって」はあまり気にせず、忠実に訳そうとはしないで、
”A chocolate confectionary having a high resolution printed image on a surface”
と訳し、「チョコレート基層」以下は、更にそのチョコレート菓子が、「チョコレート基層」「食用イメージ基体コーティング」「プリントトイメージ」の3つを備えている記載されています。このようなときは ”comprising” を用い、
“comprising a chocolate base layer, entirely almost white or light-colored edible image substrate coating that is arranged on at least a part of surface of said base layer, and said printed image formed by depositing at least one of edible black or colored ink on at least a part of said image substrate coating”
のようにまとめ上げます。ここでお気づきのように、特許請求の範囲は、すべて名詞形で完結するため。 ”A chocolate confectionary comprising 〜 ” ように訳し、主語 (S) +動詞 (V) のような通常の訳文とは異なります。また ”comprising” のように ”-ing” 形にするのは、「有することを特徴とするチョコレート菓子」のように名詞で終わる文章の訳文だからです。
「前記」という文言で出てきます。通常の訳文であれば、 ”above-mentioned” などが訳語となりますが、特許翻訳では、 ”said” あるいは単に ”the” を用います。 ”said” は最近ではあまり好まれず、弊社でも ”the” を用いることとしています。
【請求項2】
前記チョコレート基層が、ミルクチョコレートまたはダークチョコレートであることを特徴とする請求項1記載のチョコレート菓子。
“The chocolate confectionary according to Claim 1, wherein the chocolate base layer is milk chocolate or dark chocolate”
“wherein” という特許翻訳特有の単語が出てきました。これは主に特許請求の範囲で使われ、前に述べた要素を更に詳しく説明するとき、 ”wherein” でくくり、その中に特徴を記載していきます。 ”in which” とは完全に同一ではありませんが、それに近いイメージの単語です。 ”in which” の場合は先行詞を必要としますが、 ”wherein” は先行詞は必要とせず、 ”wherein” のくくりの中で、既に請求項1に出てきた ”chocolate base layer” につき、 ”wherein the chocolate base layer is 〜 ” のように更に詳しく記載していきます。
【請求項3】
前記食用イメージ基体コーティングが、約 0.01mm から約 0.2mm の範囲の厚さを有することを特徴とする請求項1記載のチョコレート菓子。
“The chocolate confectionary according to Claim 1, wherein the edible image substrate coating has a thickness of about 0.01 mm to about 0.2 mm”. |