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2010/10/25
精神分析的心理学/発達心理学:愛着と分離個体化、その3

心理学翻訳訳担当の内野です。

精神分析的心理学/発達心理学:愛着と分離個体化、その 3

(Psychoanalytic Psychology/ Developmental Psychology: Attachment and Separation-Individuation. vol. 3)

こんにちは、心理学翻訳担当の内野です。今日のコラムは前回、前々回に続き、愛着 (attachment) と分離個体化 (separation-individuation) についての文献をご紹介いたします。キーワードは英語の翻訳付きでご説明いたします。「その 2 」では母子一体の共生感 (“symbiosis”; Mahler & Furer, 1968, p. 8) をご紹介しました。今回はその後分離個体化がどのように行われるかをご紹介いたします。

まず、分離と個体化のそれぞれの定義をご紹介いたします。心理学でいう「個体化」とは自律性が高まる過程です (a process of developing subjective sense of autonomy; St. Clair, 2004) 。

分離 (separation) とは「精神的な分離感」 (“an intra-psychic sense of separateness”; St. Clair, 2004, p. 88) において、保護者などの他者から主観的な心理的な距離を増やしていく過程 (a process of increasing psychological distance from others such as the primary caretaker; Mahler, Pine, & Bergman, 1975) を指します。

Intra-psychic とは精神 (psych) の中 (intra: ラテン語で英語の within の意 ) という意味で内的、心理的なものを意味し、外的な他者との関係を意味する「対人関係」 (interpersonal) の反対です。 Intra-psychic sense of separateness とは自分は他者とは別の存在だという心理的な自覚を指します。例えば共生感 (symbiosis) を持っている子どもには母の体は自分の体の一部にすぎず、母が自分とは別の人間だということはわかっていません。「分離」ができた時には、母に抱かれている時も自分は母とは別々に存在するふたりの人間だということがわかっています。

分離個体化は生涯何度も行われますが (Colarusso, 1997) 、人生初めの個体分離化、第一個体分離化は生後 3 , 4 ヶ月から 3 歳ごろまでに行われます (Mahler & Furer, 1968) 。子どもは母子一体の共生感 (symbiosis) からゆっくりと自分という存在を自覚していきます (St. Clair, 2004) 。

Mahler はこの時期の分離個体化を 4 つの下位ステージに分けています。はじめのステージで子どもは母の体が自分の体と別だということに気づきます (St. Clair, 2004) 。 4 , 5 ヶ月には母の体から徐々に離れ、母以外の世界に興味を示します (St. Clair, 2004) 。 Mahler and Furer (1968, p. 16) はこの過程を “hatching” と呼び、卵が孵化することに例えました。

その後、子どもが 2 歳になる頃には “practicing” が行われます (St. Clair, 2004, p. 93) 。子どもははいはい (crawl) したり歩いたりと身体的な成長が進むにつれ、母から離れる練習をしますが (Bowlby, 1982) 、まだ保護者がすぐそばで見ている必要があります (St. Clair, 2004) 。この頃、子どもは見知らぬ人に対して不安を示し、保護者の顔を伺い、見知らぬ人に関する情報を集めようとします (Bowlby, 1982) 。この頃自律性も同時に育っていきます (Lamb, Hwang, Ketterlinus, & Fracasso, 1999) 。この時期母子両者とも安全 (safety) と探求 (exploration) のバランスをうまくとろうとする、愛着の新しい一面が見られます (Bowlby, 1982) 。

3 番目のステージは 再接近期 (rapprochement) です。子どもは自分が母とは別の存在だと自覚していますが、まだまだ自分ひとりではほとんど何もできません (St. Clair, 2004, p. 95) 。 Erikson (1982, p. 56) は 2 歳ごろの葛藤を「 自律性対恥と疑惑」 (“autonomy versus shame and doubt”) と呼びました。この時期子どもは自分の能力を保護者に見せようとし、それができなかったときに自分の能力に疑惑を持ちます。この繰り返しの中で子どもは自律心を育てていきます (Erikson, 1982) 。

3 歳までには第一分離個体化の最終下位ステージ、「 対象恒常性」 ( “emotional object constancy” ) に至ります。安定した母親像、つまりいい母のイメージと悪い母のイメージを包括する全体的な表象 ( whole representation) を心の中に描くことができるようになります (St. Clair, 2004, p. 98) 。この時期、子どもは自分という存在も安定し (St. Clair, 2004) 、他者との関わりにおいて、自分をなくす不安に立ち向かえるようになります。安定した自己像と他者像を育てることにより、 3 歳から 5 歳の発達課題である自発性が芽生えます (Erikson, 1982) 。この時期の失敗は罪悪感 (guilt) につながります (Erikson, 1982) 。

次回のコラムでは母親側の分離個体化についてご紹介いたします。

文献

Bowlby, J. (1982). Attachment and loss. Vol.1: Attachment (2 nd ed.). New York: Basic

Books.
Colarusso, C. A., & Nemiroff , R. A. (1981). Adult development: A new dimension in psychodynamic theory and practice. New York: Plenum.

Erikson, E. H. (1982). The life cycle completed: Extended version with the new chapters on the ninth stage of development . New York: W.W. Norton & Company.

Lamb, M. E., Hwang, C. P., Ketterlinus, R. D., & Fracasso, M. P. (1999). Parent-child relationships: Development in the context of the family. In M. H. Borstein & M. E. Lamb (Eds.), Developmental psychology: An advanced textbook (4 th ed.). Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.

Mahlar, M. S., & Furer, M. (1968). On human symbiosis or the vicissitudes of individuation. New York: International Universities Press.

Mahler, M. S., Pine, F., & Bergman, A. (1975). The psychological birth of the human infant. New York: Basic Books.

St. Clair, M. (2004). Object relations and self psychology: An introduction. (4 th ed.).
Belmont, CA: Brooks/Cole .

Uchino, T. (2007). The midlife mother's separation-individuation from her daughter: A comparative qualitative study of Mexican and Japanese mothers residing in the United States. Psy.D. dissertation, Alliant International University, San Diego, United States, California. Retrieved March 26, 2010, from Dissertations & Theses: Full Text. (Publication No. AAT 3273278).


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