翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

分子生物学・バイオ技術・環境コラム一覧へ戻る

2013/01/10
稀な病気に使う薬、オーファンドラッグ

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

1992年5月、洋酒メーカーのサントリーから、高フェニルアラニン血症(hyperphenylalaninemia)の治療薬ビオプチンが発売されました。

フェニルアラニンは必須アミノ酸の一種で、これに体内の酵素が働いて神経伝達物質ができます。この酵素を円滑に動かす補酵素が先天的に欠如しているのが高フェニルアラニン血症で、神経伝達物質が合成されず神経障害を起こします。死亡率も高く、成長しても精神発育障害をともなうことが多い難病です。

一般的にいって、民間企業はごく少数しかいない病気の薬の開発は、採算が合わないのでためらうのが普通です。にもかかわらず、サントリーがごく少数の患者のために膨大な費用を投入したのは、同社が医薬品市場に参入したばかりであり、ビオプチンの開発で得られる各種の情報を、今後の医薬品開発に活かす意図があったからと考えられます。結果として、採算を度外視した開発に対する社会的評価も得られています。

しかし、これはあくまでも例外であり、市場性の乏しい医薬品の研究開発を民間企業に期待するのは無理な話です。やはり国による何らかの措置がなければなりません。
難病に対しては1979年から「新薬開発研究事業」が開始され、92年までに20件の研究が公費で行われているものの、これだけでは企業の開発意欲をそそるには不十分です。

この研究開発援助を受けるためには、まずオーファンドラッグ(orphan drug)の指定を受けなければなりません。その基準は、患者数が5万人以下の疾患に使うもので、医療上必要性が高く、開発の可能性の高い医薬品が対象になります。ただし、指定後の効能の拡大などで、対象患者の数が大幅に増えた場合は、厚生労働大臣の指定は取り消されます。

オーファンドラッグの指定を受けると、助成金の交付とともに指導と助言が受けられ、税制上の優遇措置も受けられます。医薬品ができあがれば製造販売申請時に画期性加算、市場性加算の対象になることが予想されます。

オーファンドラッグの指定は頻繁に行われており、多くの薬剤の開発が進められています。


分子生物学・バイオ技術・環境コラム一覧へ戻る