翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2012/04/23
人体内で分解吸収される生体吸収性分子

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

手術した後、抜糸(suture removal)しなくても分解吸収されてしまう縫合糸が使われていることをご存知ですか。医療用の材料には、生体内で長時間にわたり機能することが期待されるもの(人工臓器など)と、生体内である期間内に必要な機能を果たした後に分解消滅するものとがあります。後者が生体吸収性高分子材料であり、縫合糸やステイプラー、クリップ、骨折した部位を接合するスクリュー、ピンなどの外科用材料があります。

このような材料には「材料そのものと分解生成物の安全性」、「用途ごとの強度」、「操作性」、「材料の適用期間と分解吸収速度」が総合的にバランスしていることが求められます。歴史的には、ウシの腸からとれる繊維が使われていました。供給安全性、さまざまな要求物質への対応などの利用から、合成糸の材料が開発され、1970年代以降急速に伸張しました。とりわけ、狂牛病に端を発する規制強化により、合成糸の市場シェアが増えており、吸収性縫合糸の世界市場約1000億円の中で合成糸が90%以上を占め、年率4%以上の伸びを示しています。

縫合糸に使われる主な材料は、ポリグルコール酸(PGA)とポリジオキサノン(PDO)です。長時間の安全性が求められる骨片接合用のスクリュー/ピンには、ポリ乳酸(PLA)が使われており、使用されている樹脂の総量は100t程度になっていると思われます。また、除放性用途で使われる樹脂もトン単位になっているようです。

今後、手術の簡便化を目指した糸以外の固定具用途、再生治療における皮膚や期間を培養するための足場材用途、抗癌剤の投与回数を減じるための除放性用途において、生体吸収性高分子材料がさらに重要になっていくでしょう。


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