翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2012/02/22
ピロリ菌と胃がん

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

胃炎(gastritis)や胃潰瘍(gastric ulcer)を引き起こし、胃がん(stomach cancer)の原因になるとして一躍有名になったヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)。「ヘリコ」とはヘリコプターの「ヘリコ」と同じ意味で、ギリシャ語でらせんや旋回を意味し、「バクター」はバクテリアを意味します。「ピロリ」はこの胃の出口付近の幽門(ピロリ)から多く見つかることに由来しています。長さは0.004mmで、その名の通りらせん状です。

胃炎との関連は、1984年にオーストラリア人医師マーシャルによって初めて証明されました。その証明方法は、何とピロリ菌を自ら飲み込むというもの。「胃炎の原因はピロリ菌である」という彼の主張は、他の科学者から疑いの目で見られていましたが、胃炎を発症させることによって、ピロリ菌の悪行を証明するとともに、胃炎や胃潰瘍の発症、再発防止にはピロリ菌の除菌が有効であることを華々しく発表し、この偉業に対して2005年ノーベル医学生理学賞が授与されました。しかし、ピロリ菌が体内にいてもすべての人に症状が現れるわけではなく、感染したからといって必ずしも除菌しなければならないとは限りません。

また、胃では悪行を働くピロリ菌が、食道炎や食道がんの発症を抑えているのではないかとの、「食道での善行」が推測されており、除菌すべきか否かの議論には研究結果が待たれています。

日本人や韓国人は欧米人に比べ、ピロリ菌による胃がんになりやすいことが、2007年の名古屋大学の研究で明らかになりました。ピロリ菌に感染すると、通常、まず胃粘膜の萎縮が起こり、次いで胃がんへと進行します。ピロリ菌に感染した日本人について、胃の萎縮が起こった人と起こらなかった人の遺伝子情報、つまり、体を作る設計図を比較したところ、「PTPN11」という遺伝子の一部の情報が「GG」「GA」タイプの人に、5〜6割という高い確率で萎縮が起こっており、逆に「AA」タイプの人で萎縮が起こっていたのはたったの1割以下でした。悲しいことに日本人の9割以上が生まれながらにして前者であり、ピロリ菌の感染から胃の粘膜の萎縮に移行するリスクがとても高いです。

しかし、ピロリ菌の増殖予防にはカテキン(catechin)が強い味方になってくれます。日本の緑茶にはカテキンがたっぷり含まれており、これがピロリ菌にくっつくと、大人しくなるのだとか。しかし、胃に不快感、痛みが現れた場合は無理をせずに医師に相談してください。


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