翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2012/01/30
キチンとキトサンについて

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

健康食品、抗菌マスク、シャンプー、スキンケア用品、制ガン剤、ダイエット用ファイバー、肌着、土壌改良剤(soil conditioner)、人工皮膚、廃液凝集剤などなど、これらの製品の共通項は何だと思いますか。答えは、カニやエビの殻とカイコの抜け殻の共通成分である、キチン(chitin)とキトサン(chitosan)です。

キチンは木材や木綿の繊維の主成分であるセルロースとたいへんよく似た化学構造をもっています。つまり、セルロースはグルコースがリボンのように直線的に重合したポリマーですが、キチンの場合はそのグルコースの2番目の炭素に水酸基ではなくN-アセチルアミノ基がついています。

そして、セルロールと同じように自然の中で生産させ(カニやエビといった甲殻類、軟体動物、昆虫、糸状菌類によって膨大な量が生産されています)、微生物などによって分解されていくため、資源的には枯渇の心配もなく、環境への負荷も少ないバイオマス資源といえます。キチンには免疫力低下や整腸補助作用、血糖値調節作用、脱コレステロール作用、血圧降下作用、生体適合性、生体親和性、治癒促進効果などの効果が発表されています。が、キチンは溶媒に溶けにくく化学反応性も低いため、最近までセルロースのようには有効に使われてきませんでした。

キトサンは菌類の成分としても天然に存在しますが、多くはキチンを濃いアルカリ溶液内で加熱してキチンのアセチルアミノ基内のアセチル基をはずし、アミノ基にすることによって得られています。このキトサンはアミノ基をもつため、水溶液にすることができたり、科学修飾できたり、キレート化合物(chelate compound)を作ったりといった特色をもっています。

キトサンは、植物に対しては成長促進効果や病害抑制効果があり、土壌改良などにも利用されています。特に医療および医学分野では降コレステロール作用、血圧降下作用、免疫力強化作用、抗菌抗カビ作用、腸内有用細菌増殖作用、重金属体外排泄作用、創傷治癒促進作用といった多くの生理作用を利用して、人工皮膚、人工血管、手術系、術衣等多くのものが作られています。アトピーにも効果があるという報告があり、キトサン粉末を混入したレーヨン系で幼児用肌着も作られています。このほか、キトサンが有機物や重金属を吸着することから、排水処理剤としても利用されています。

キトンとキトサンはとても身近にあるバイオマスです。キノコやエビ殻などに含まれるキチンを、私たちは意識しないで食べています。キチンとキトサンは消化することができませんが、食物繊維としても機能性食品としてもますます利用が広まると思います。同時に、多糖系医薬品としてもバイオテクノロジー素材としても更に研究が進んでいくことが期待されています。


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