翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/12/06
ラジウムについて

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

東京都世田谷区八幡山にあるスーパーの敷地で高い放射線量(high radiation)が計測され、掘削調査(drilling survey)により地中約75センチのところから塊状(solid)のラジウム226(Radium-226)が発見されました。発見場所から周辺300mが通行止めとなり、汚染された土壌の除去作業が始まっています。ところで、「ラジウム」という言葉を聞くと、人気のある温泉の一つである「ラジウム温泉」を連想する人が多いと思います。そのため、この温泉に入ることが健康に悪いのではないかと心配する人も少なくないはずです。

ラジウムは1898年にキューリー夫妻によって発見されました。日本では明治時代後期の頃です。当時は、目に見えない光線が出ている不思議な物質の発見として、大きな驚きでもありました。ヨーロッパではラジウムの名称が付いた商品が流行し、例えば清涼飲料水にもラジウムの効果や漸進性がその商品にもあるかのように利用されました。日本でも、全国の鉱山や温泉で精力的に分析調査が行われ、ラジウム含有量を競い合うようになりました。「ラジウム温泉」に名乗りを上げる温泉宿の経営者たちも次々と現れ、含有量の高さに一喜一憂したのだとか。

ラジウムからはα線やγ線という放射線が出ています。また、放射性核種(radionuclide)であるラドン(radon)が娘核種(daughter nuclide)として生じます。ラジウム泉にはラドンも含まれるので、ラドン泉も含めて広く「ラジウム温泉」と呼ばれています。温泉のラジウム放射能の影響を考える場合、浴用ではγ線による外部被爆を心配し、飲用すればα線による内部被爆、そして娘核種の吸入による被爆を考慮する必要があります。

それらの放射能は同じ温泉でも天候や機構によって変わりますが、最も多いところで1リットルあたり平均1700ベクレル程度の放射性物質が含まれると計算されています。人体に対する影響を放射線による被爆線量で考えると、温泉好きな人が1時間浴室にいて30分間入浴する行動を1日3回ずつ1週間繰り返したとしても、0.03ミリシーベルト程度の被爆しか受けません(ベクレルとは放射能の量を表す単位で、シーベルトは放射線の被爆線量を意味する単位です)。日本とニューヨークを飛行機で往復したときの宇宙被爆が0.19ミリシーベルト、1回の胸部レントゲン撮影(chest roentgenography)が0.3ミリシーベルト、また、日本では誰でも自然放射能によって年間約2.4ミリシーベルトの被爆を受けていることから考慮すると、健康に害を及ぼすほどの放射線は温泉で発生していないことになります。

ラジウム温泉は動脈硬化症(arteriosclerosis)や高血圧症、胆石症(cholelithiasis)や慢性皮膚病などに効き、飲用すれば痛風(gout)などに効くとうたわれています。それは微弱な放射線が及ぼす活性化効果の結果であるとの説もありますが、その科学的な真偽はまだ解明されていません。少なくとも放射線障害を心配してこわごわ入浴する必要はないので、温泉そのものとしての効果を楽しむべきでしょう。


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