翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/10/03
ポジトロン断層法

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

ポジトロン断層法(positron emission tomography;PET)と呼ばれる医学診断技術は、体内の臓器や組織の中での物質代謝や血流などを、迅速にしかも痛みを伴わずに検査できるので、近年著しく普及しています。

PETの頭文字になっている陽電子(positron)は、通常の電子と質量が完全に等しく、電荷が逆のプラスになっている「反電子」です。したがって、電子と合体すると光子(photon)2個を発して消滅します。この光子は高エネルギー(high energy)のγ線で、元の電子と陽電子の運動量はほとんどゼロとみなしてもよいぐらいなので、2個の光子は運動量保存の法則に従ってぴったり反対方向に飛び出します。それをまわりに並べた検出器で検知してやれば、2つの検出点を結ぶ線上から発した光であることが確認できます。

そこで、陽電子を発生するような放射性同位元素(radioisotope)を含む物質を、例えば血流に乗せてやって脳内を循環させると、脳の血流量やブドウ糖代謝、酸素代謝などの脳細胞の活動情報を得ることができます。

PETに使える同位元素は軽い元素に多く、炭素(carbon)、窒素(nitrogen)、酸素(oxygen)、フッ素(fluorine)など、生体分子に取り込ませやすいものがあります。しかもこれらの半減期は数分程度しかないので、残留して放射線の被害を及ぼす可能性は少ないです。もっとも、半減期が短いということは、迅速な扱いを要求されるという困難もあります。昔はSFでしかお目にかからなかったような技術が、現実のものとなっているわけです。


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