翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/09/26
mRNAのエンディング

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

mRNAの塩基配列(base sequence)は、mRNAのエンディング(ending)という現象によって変化することがあります。エンディングでは1つの塩基が変化することによって、そこの部分だけの遺伝暗号が変化し、既定のアミノ酸が他のものになります。しかし、中には終止暗号ができてしまうこともあります。そのような変化を受けた翻訳過程においては、そこで翻訳が終わってしまいます。また、塩基の挿入や欠失によって、そこから後ろの遺伝暗号が全部ずれてしまうケースもあります。

挿入や欠失が起こる場合には、ガイドRNA(gRNA)という小さなRNAが寄り添って、挿入や欠失を起こさせるように介助します。挿入にも欠失にもRNAを切ってつなぐという過程があるわけです。スプライシング時におけるsnRNAの介助に似ています。

高等植物のミトコンドリアでは、すべてのタンパク質mRNAがエンディングの対象らしいです。トリパノゾーマ(trypanosome)が持っているシトクロームオキシダーゼ(cytochrome oxidase)という酵素では、エンディングによって731塩基からなるmRNAに、407個のウリジン(uridine)挿入と19個のウリジン欠失があるそうです。DNAの塩基配列とは似ても似つかぬものに変化するわけですね。ヒトにおいても、脂質の輸送や代謝に関わるアポリポタンパク質BのmRNAの6666番目の位置で、シトシンが脱アミノ化してウラシルに変化し、暗号がグルタミンから終止暗号に変化する。肝臓では起きないけれども、小腸ではこの編集が起きてタンパク質の機能が変化するわけです。グルタミン酸受容体タンパク質(glutamic acid receptor protein)でも、アデニンからイノシンへの変化で、暗号がグルタミンからアルギニンへ変化し、タンパク質の機能が変化します。当然、DNAの塩基配列から推測されるアミノ酸の配列は、実際に翻訳されるタンパク質のアミノ酸配列と違うものになります。特定のmRNAの、特定の部位のヌクレオチドだけを狙って変化させる機構というのは、同じ翻訳会社または翻訳者という立場からも感心します。


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