翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

分子生物学・バイオ技術・環境コラム一覧へ戻る

2011/09/12
フレームシフトによる翻訳の変化

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

翻訳はmRNA上の3つずつの塩基配列による暗号(コドン)を読み取って進みます。この枠(フレーム)がずれる(シフトする)ことを「フレームシフト」といいます。一塩基ずれてしまうと、そこから後ろにあるほとんどすべてのアミノ酸配列が、元の情報とは異なったものになります。ところが、翻訳中にワザと特定の場所から一つ前へ、あるいは一つ後ろへフレームシフトして翻訳が進む例があるのです。複製や転写、および翻訳会社は、できるだけ正確にやろうと努力しているにもかかわらずです。特定の場所というのは、mRNAの二次構造などで指定されているのですが、フレームシフトしないと、ちゃんとしたタンパク質ができません。

ウィルスの遺伝子だけに起こる話ならあえて取り上げないのですが、ヒトのアンチザイムというタンパク質のmRNAでも見られる現象なのです。細胞内でポリアミンという物質が増えると、このフレームシフトが働いてアンチザイムがたくさんできます。アンチザイムの働きは、ポリアミン合成酵素であるオルニチン脱炭酸酵素に結合してその働きを抑制することです。つまり、ポリアミンがたまり過ぎたら、それを合成する酵素の働きを抑制するという回路で機能している。アンチザイムのmRNAは、フレームシフトを起こさない状態では、ちゃんとした機能を持ったタンパク質を作れません。普段は役に立たないmRNAとしか思えないけれども、そんな無駄なものがあるはずがないとすれば、まだ理解不足なのかもしれません。


分子生物学・バイオ技術・環境コラム一覧へ戻る