翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/09/12
染色体異常

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

有名な「ダウン症候群」という病気は、21番染色体が3本あることによって起こります。3本になることをトリソミーといいます。母親の年齢が高くなると、ダウン症候群の出生率が急増するといわれています。21番染色体上の遺伝子が2つあるべきところが、3つになったために、遺伝子から翻訳されるタンパク質が、普通の場合に比べて1.5倍に増えてしまうことが発症の原因らしいと考えられています。多くの遺伝子では、そこから翻訳されるタンパク質が1.5倍や2倍になったとしても大きな影響がないか、あるいは遺伝子数が増えても、そこからの翻訳量を一定に保つ調節が働きます。つまり、翻訳会社は大した影響を受けません。ただ、一部の遺伝子では、翻訳量が1.5倍違うことで、大きな悪影響が出てしまうものと考えられます。

なぜ他の染色体に比べて、21番でトリソミーがよく見られるのでしょうか。21番が他の染色体に比べてトリソミーを作りやすい性質をもっているのでしょうか。そうではありません。大きい染色体ほど多くの遺伝子を持っているはずですから、大きな染色体の数が変わったときには、影響が大きすぎて生まれる前に死んでしまうと考えられます。小さな染色体には乗っている遺伝子が少ないので、影響は出るけれども何とか誕生することができる。一番よく見られる現象が、一番よく起きることであるとは限らないということです。こういうことは生き物についてしばしば見られることで、解釈に際して気をつける必要があります。

染色体の番号は、顕微鏡で観察した形から大きい順に付けられているので、最も小さいものは22番(23番は性染色体で大きい)です。しかし、ヒトゲノムプロジェクトによって遺伝子数がわかったとき、22番に比べて21番のほうがずっと遺伝子数が少ないことがわかりました。「遺伝子の一番少ない染色体で、トリソミーが一番高頻度に見られることは、大変にもっともらしい結果である」と言われていますが、その通りだと思います。


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