翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2013/03/25
iPS細胞と生命

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

ニンジンの一部を切り出して、試験管の中で糖や塩などを含む寒天(agar)の上に置くと、細胞分裂(cell division)を繰り返して細胞を増やすことができます。

細胞が集まっただけの不定形の塊をカルス(callus)と言いますが、植物ホルモンであるオーキシンとサイトカイニンの量を調節すると、そこから根を出したり、茎を伸ばしたりして、植物個体を作ることができます。元を正せば、ニンジンの細胞の塊です。実は植物の葉や茎、果ては花粉でも、細胞1つを培養して、植物個体を作ることが可能です。植物の細胞は、どの部位の細胞でも、培養すれば分化して、固体をつくる能力を維持しているのです。寒天を抜いた水溶液の中で培養することもできます。

一方、動物の細胞は、たとえば肝臓の細胞から動物固体をつくることはできません。その能力を持つ細胞は受精卵です。発生初期の細胞塊(cell mass)から得られる胚性幹細胞もすべての組織をつくる可能性を秘めています。今話題のiPS細胞では皮膚の細胞でも数種の遺伝子を導入するだけで、ES細胞同様にすべての組織をつくることが可能となりました。つまり受精卵やES細胞に頼らず、体細胞から動物固体をつくれるのです。

ヒトの細胞も含めて、細胞1つから生物個体がつくられる可能性があるのです。すぐにヒトをつくれるわけではありませんし、将来そのようなことをしていいかどうか、これは生命倫理の問題です。でも、臓器移植を必要とする人が、自分の体の細胞からつくった臓器を移植できたら、臓器提供者を捜すことも移植後の拒絶反応も解決されることになりますね。


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