翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」



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2013/01/29
ホルモン産生臓器である甲状腺の癌は女性に多い

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

甲状腺癌(thyroid cancer)は進行症例においても特徴的な症状に乏しいことが多いですが、主訴としては頸部の腫れ、ノドの違和感やつかえ、声枯れなどがあげられます。甲状腺は頸部の表在性臓器であるため、視診および触診がまず重要です。病変の詳細な評価には超音波検査と穿刺吸引細胞診が有用です。また甲状腺機能検査として甲状腺刺激ホルモン(TSH)と甲状腺ホルモン(freeT3、freeT4)値などがあります。サイログロブリンは良性悪性の鑑別には必ずしも有用ではありませんが、術前に高値が見られる甲状腺癌症例において術後血中サイログロブリン値の変動は、再発や転移のよい指標になります。カルシトニンとCEAは、髄様癌症例において高頻度に上昇します。

甲状腺癌の予後を改善する因子として、年齢(age)、遠隔転移(metastasis)の有無、甲状腺被膜外浸潤(extrathyroidal extension)の有無、腫瘍サイズ(size)の4つが重要で、それぞれの頭文字からAMESと表現されます。国際対がん連合(UICC)の臨床病気分類にあるように年齢は45歳以上、腫瘍サイズは4cmを超えるという基準が普通用いられています。これらの因子の有無により、高危険群と低危険群に分けられます。他の臓器の癌と異なりリンパ節転移の有無は予後に影響する因子に挙げられていませんが、リンパ節転移自体は非常に高頻度にあります。

甲状腺癌に対する治療法には、外科的切除、放射性ヨード療法、外照射、甲状腺ホルモン療法があります。このうち、治療が期待できるのは外科的切除であり、その他は補助療法(adjunct therapy)として使用されます。したがって、切除が可能であれば治療の第一選択は手術療法です。切除術式には葉切除術、亜全摘出術、全摘出術があります。これらの術式の選択には、予後因子を参考にします。頸部リンパ節転移の頻度は非常に高率ですが、予後決定因子にならないという報告が大半を占めているため、予防的リンパ節郭清術は一般に甲状腺と気管周囲のリンパ節に行います。その他のリンパ節は明らかな転移が見られる場合に、その部位に応じて保存的な郭清を行います。

遠隔転移や腫瘍残存例では、可能な場合に放射性ヨード治療を行います。その適応は遠隔転移を有する甲状腺分化癌で、甲状腺全摘後に検査で放射線ヨードの取り込みが認められる場合です。全摘例および甲状腺機能低下例では術後に甲状腺ホルモン剤の内服による補助療法を必要とします。また、甲状腺の近くには体のカルシウムを調節する副甲状腺が一般に4膜あります。甲状腺全摘例で副甲状腺機能低下例を来たすことがあり、この場合はビタミンD製剤とカルシウム剤の投与が必要とされます。

しかし、未分化癌に関しては標準的な治療法がまだ確立されていないのが現状です。


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