プリペアドピアノについて
高橋翻訳事務所

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2019/05/08
プリペアドピアノについて

音楽翻訳担当の池上です。

ドイツを拠点に活動しているピアニストの友人が、先日あるレターをFacebookにアップして、喜びを報告していました。それは有名なピアノ・メーカーであるスタインウェイ社(Steinway & Sons)が発行した「このピアニストが用いるプリペアド・ピアノ(prepared piano)の技術は、ピアノを傷つけないものであることを証明します」というもの。

現代音楽にくわしい方なら、プリペアド・ピアノと聞けばそれがどういうものであるかすぐにピンとくるかと思いますが、おそらく多くのみなさんにとっては「それは何?」という感じではないでしょうか。

プリペアド・ピアノとは、現代音楽におけるピアノ奏法のひとつで、ピアノ内部の弦の部分にねじや消しゴムなどいろいろなものをはさんで音を変える手法のことです。ピアノの弦を指で直接はじくなど、ピアノ内部を使用する技法の総称として「内部奏法(inside the piano techniques)」などと呼ばれることも多くあります。

内部奏法は、アメリカの作曲家ヘンリー・カウエル(Henry Cowell, March 11, 1897 - December 10, 1965)がはじめたという説が有力で、プリペアド・ピアノに関してはカウエルの弟子にあたり、『4分33秒』などの音楽史に残る問題作で知られるジョン・ケージ(John Cage, September 5, 1912 - August 12, 1992)が積極的に取り入れたことで知られています。

ケージによるプリペアド・ピアノ作品として特に有名なのが『プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード』(Sonatas and Interludes for Prepared Piano)です。

https://www.youtube.com/watch?v=3w7GeJCLpJc

この動画に出てくる写真を見て驚かれた方も多いかもしれません。たしかにはじめて見ると「こんなことして大丈夫なの?」と思われますよね。

これに関しては、大丈夫なものとそうでないものがある、というのが答えです。特にクラシックの専門教育を受けてきたピアニストの場合、ピアノの構造も学んでいますから、どこを触っても大丈夫か、逆にどこに触ってはいけないかということを熟知して、このような手法を使っています(ただしピアノを傷めない技術の場合も、演奏後に調律(tuning)は必要になります)。

とはいえ見た目にもショッキングな部分があることもあり、日本では「内部奏法お断り」というコンサートホールやライブハウスが多いというのも現実です。

これまで聞いていた話だと、欧米は日本に比べるとピアノの内部奏法に寛容という印象が強かったのですが、冒頭の友人が取得したレターを見ると、欧米でも内部奏法に対する抵抗はまだまだ根強いようです。

「スタインウェイのお墨付きをもらえた! このレターがあれば音楽活動がしやすくなる!」と喜んでいた友人の、さらなる活躍を期待しています。


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