2020年グラミー賞発表、5部門獲得ビリー・アイリッシュについて



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2020/6/4
2020年グラミー賞発表、5部門獲得ビリー・アイリッシュについて

音楽翻訳担当の池上秀夫です。

去る1月26日、アメリカで2020年のグラミー賞(Grammy Awards)が発表されました。今回わたしが特に注目したのは、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)。若干18歳の女性シンガーソングライターですが、間最優秀楽曲賞、年間最優秀アルバム賞、年間最優秀レコード賞、最優秀新人賞、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞の5部門を獲得し、今年のグラミー賞における最多受賞アーティストとなりました。特に最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞以外の4部門に関しては史上最年少の受賞で、1981年の第23回でクリストファー・クロス(Christopher Cross)が達成して以来39年ぶり2度目、そして女性アーティストとしては初という、まさに快挙だったわけです。

日本では、今回の受賞の報道の中では、アイリッシュがまだ18歳ながら政治や社会問題に積極的に発言していることが注目されることが多いようです。もちろんそれも素晴らしいのですが、やはり注目すべきはその音楽だと思います。

ビリー・アイリッシュは2001年12月18日生まれですから、21世紀の人ということになります。こんな人がグラミー賞を獲るようになったのかと思うと、自分の年齢のことなどもつい考えてしまいます。本名はビリー・アイリッシュ・パイレート・ベアード・オコンネル(Billie Eilish Pirate Baird O'Connell)。両親はプロのミュージシャンではないようですが、両親とも音楽や演劇に携わった経験を持ち、アーティスティックな家庭環境にあったようです。しかし、最初からメジャー・レーベルと契約して音楽産業の中に入るような活動をしていたわけではありません。

ビリーの楽曲が最初に注目を集めたのは、SoundCloudという音楽向け音声ファイル共有サービスのサイト。YouTubeの音声版と考えていただければ分かりやすいかと思います。YouTubeと同様、アカウントを開設すれば誰でも自分の音楽を公開できるこのサイトで、ここで彼女が13歳の時にアップした「Ocean Eyes」が1,400万以上の再生回数を記録したことが、大手レーベルのInterscope Recordsとの契約につながったのです。

ビリーはまだ18歳ながら、歌唱はもちろん、自分が歌う曲の作詞作曲、アルバムbのアートワークなどのビジュアル面からライブのステージングなども自らプロデュースしています。音楽の制作については、実兄でミュージシャンのフィネアス・オコネル(Finneas O'Connell)との共同作業で、二人の実家につくったスタジオで行っているとのこと。ビリーが作った曲をフィネアスがコンピュータやギター、ピアノなどを演奏して楽曲を完成させる、というプロセスを行っているようです。

お聞きになった方はお分かりと思いますが、その音楽はけっしてポップ(pop)と言えるものではありません。ささやくようなビリーのボーカルに、バックのトラックはベースとドラムスの音を軸にした、かなり音数の少ない絞り込まれた印象のものが多くを占めます(フィネアスはインタビューでこのサウンドを「ミニマル(minimal)」と表現していました)。楽しいものというより、シリアスな印象が非常に強いものになっています。

アメリカの、しっかりプロデュースをするショービジネスの世界とは一線を画した音楽、しかも18歳の若者がビジネスとは関係ないところで作りはじめた音楽がこのように大きな影響力を発揮するというのも、アメリカの音楽界のふところの深さのあらわれかもしれません。ビリーの今後の活躍にも期待がふくらみます。


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