「クリーム元メンバー、ジンジャー・ベイカー逝去」

高橋翻訳事務所

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2019/12/4
「クリーム元メンバー、ジンジャー・ベイカー逝去」

音楽翻訳担当の池上秀夫です。

ロックバンド、クリーム(Cream)の元メンバーだったドラムスのジンジャー・ベイカー(Ginger Baker)(1939〜2019)がこの10月6日に亡くなりました。80歳でした。このニュースは、往年のロックを愛する音楽ファンの間に深い悲しみをもたらしました。

ベイカーの名を世に知らしめたのが、冒頭に挙げたバンド、クリームでした。クリームが結成されたのは1966年。メンバーは当時イギリスで「ギターの神様」との名声を得ていたエリック・クラプトン(Eric Clapton)がベース、ボーカルのジャック・ブルース(Jack Bruce)、そしてドラムスのベイカーの三人でした。今でこそ『ティアーズ・イン・ヘブン(Tears In Heaven)』などのヒット曲を自ら歌っていることで人気を博しているクラプトンですが、当時は歌っておらず、クリームでもボーカルを担当したのはベースのジャック・ブルースでした。

クリームは、後のハードロック(Hard Rock)の原点になったバンドのひとつと言われています。クラプトンは「ディストーション(Distortion)」と言われる、ギターアンプの音を思い切り歪ませた大音量の演奏を全面に打ち出したのですが、そのようなスタイルに応えられるパワフルさを持っていたドラマーがベイカーだったということです。

クリームが革新的だった部分のひとつが、ライブ演奏における即興(Improvisation)です。『クリームの素晴らしき世界(Wheels Of Fire)』などのスタジオ録音の作品では、従来通りと言っていい、比較的コンパクトな作品を演奏していたのですが、ライブでは様相がまったく異なり、三人の音がぶつかり合うような、長時間の即興演奏を繰り広げていました。クラプトンにとっては、このような即興性の高いライブ演奏の実現のために、ジャズなどの演奏経験もあるブルースとベイカーが必要だったのかもしれません。ただし『ライヴ・クリーム(Live Cream)』などいくつかのライブ盤に残されている演奏を聞くと、それは勢いにまかせたものにも感じられるもので、即興の中での展開はあまりない単調なものになっている感は否めません。ただ、若く才能にあふれた三人のミュージシャンがエネルギーをぶつけ合う凄まじさは、今の耳で聞いても伝わってきます。

ライブではこのようにプレイヤーとしての即興演奏を全面に打ち出したクリームは、スタジオ録音では楽曲をきかせるスタイルを重視していました。ヒット曲『ホワイト・ルーム(White Room)』は、今でもクラプトンがよく演奏する曲になっていますので、耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。ただこれも、クリームではジャック・ブルースが歌っていますが。
https://www.youtube.com/watch?v=dJWnnDE4Fmg

衝撃を持って迎えられたクリームですが活動期間は短く、1968年には活動を終えてしまいます。デビューが66年ですから、3年あまりで活動を終えたことになります。才能があり個性も強いメンバーだっただけに、素晴らしい音楽を生み出した一方で、衝突も大きかったということかもしれません。しかしそんな短命だったクリームですが、今も聞かれ続けていることから考えても、彼らが生み出した音楽がロックと言う音楽全体に与えた影響の大きさが分かります。

その後、クラプトンが紆余曲折を経つつもスーパースターへの道を進んだのに対し、ブルースとベイカーはいささか地味になってしまった感はあります。しかしこの二人も後の世代のミュージシャンたちから常にリスペクトを集め続け、折々に興味深い録音作品を残しています。

今では「クラシック・ロック(Classic Rock)」という言葉が生まれるほど、ロックも歴史を積み重ねてきました。そんなクラシック・ロックの中でも大きな存在であるクリームも、ベースのジャック・ブルースが2014年に鬼籍に入ったのに続き、ベイカーもこの世を去りました。とても寂しいことですが、あらためて彼らが作ってきたロックの歴史を振り返り、その未来に想いをはせた、そんな今回の訃報でした。


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