医学翻訳、薬事申請翻訳、看護翻訳、介護翻訳、医療翻訳担当のY.O.です。
医療機器(medical device)に関する文書や医学論文の翻訳をしていますと、日常の生活ではあまり目にすることがない長い単語や複雑なスペルの単語が多く出てきます。私も初めて医療機器業界に入った時は知らない単語ばかりで、一文を読むのに何度も辞書を引いていた状態でした。さらに、辞書を引いてもそのままの形では見つけられない単語も多々あり、途方に暮れたこともあります。
今でも重要な単語については勘違いや思い込みがないように辞書を引いて確認しながら訳していますが、内容を把握するための最初のリーディングでは、ほとんど辞書を引くことはなくなっています。もちろん、その時点で正確な訳語を知らない場合もありますが、単語の意味をある程度「類推」(analogy)することができれば、翻訳の下準備としての内容把握は可能です。
「類推」というと難しく聞こえるかもしれませんが、既に知っている単語から新しい単語の意味を類推することはごく自然な行為で、実はほとんどの人がある程度無意識のうちにしているものです。
一番わかりやすい「類推」の方法の一つは、単語を解剖することです。長い単語は複数の意味を有する語の組み合わせで構成されていることが多いため、単語を解剖することによって、その一部でも知っている語(全体または一部)を見つけることができれば、少なくともその部分の意味は類推することができます。単語のどの部分に入るかによって多少語の形が若干変わることもありますが、これも多くの単語に接する中で類推できるようになります。
例えば、「osteoporosis」(骨粗鬆症)や「osteocyte」(骨細胞)に共通する「osteo-」は「骨」に関する語であることを表しているため、「osteotomy」(骨切り術)という初めて単語を見たとき、それが骨に関連する単語であることが類推できます。さらに、「angiotomy」(血管切開術)などの単語を知っていれば、共通する「-tomy」の部分は「切ること」に関連していることが類推でき、正確な「骨切り術」という専門用語はわからなくても、「骨」+「切ること」というおおまかな意味を類推できることになります。
挙げればきりがありませんが、その他の例をご紹介します。
○angio- →血管/脈管:angiography(血管造影法)、angioblast(血管芽細胞)
○auto- →自己/自家:autoblood(自己血液)、autograft(自己移植/自家移植)、autotransfusion(自己血輸血)
○bio- →生命/生体:biopsy(生検/生体組織検査)、biology(生物学)、bioactive(生体活性)、bioethics(生命倫理)
○cardio- →心臓:cardiotomy(心臓切開術)、cardiovascular(心臓血管の)、cardiology(心臓学/循環器学)
○hemo- →血液:hemocompatibility(血液適合性)、hemogram(血液像)
○myo- →筋:myocardium(心筋)、myopathy(筋障害)
○psycho- →心理:psychology(心理学)、psycholinguistics(心理言語学)
○-lysis →溶解/溶けること:osteolysis(骨溶解)、hemolysis(溶血)
○-logy →学問:angiology(脈管学)、ecology(生態学)、hemology(血液学)
○-plasy →形成術:angioplasty(血管形成術)、arthroplasty(関節形成術)
○-toxicity →毒性:cytotoxicity(細胞毒性)、leukotoxicity(白血球毒性)、radiotoxicity(放射性毒性)
また、それが入ることによって「反対」の意味であることを表す語もあります。
○counter- :clockwise(時計方向の)←→ counterclockwise(反時計方向の)
○a- :symptomatic(症候性[の])←→ asymptomatic(無症候性[の])
英語は長い歴史の中で複数の異なる言語の影響を受けた言語で、必ずしも語と意味が一対一の関係にはないため、このような経験に基づく類推が常に正しいとは限りませんが、長い単語や複雑に見える単語に遭遇したとき、ぜひ単語を解剖して類推しようとする習慣をつけてください。その後に辞書で意味を確認することによって、その単語が語彙(vocabulary)の一部としてより確かに定着するだけではなく、新たな単語を類推するツールにもなります。
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