翻訳家によるコラム「医学・薬事申請コラム」

高橋翻訳事務所

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2010/10/25
物との付き合い方

医学翻訳、薬事申請翻訳、看護翻訳、介護翻訳、医療翻訳担当のY.O.です。

最近、日常の生活における物との付き合い方に関する本を多く目にします。
私も何冊か読んでみました。

具体的な推奨事項などは著者によってそれぞれ異なる部分もありましたが、概ね、

  1. 今持っている物が本当に必要かどうか見直し、必要なければ処分する。これにより、不要なモノの整理や手入れにかけている時間・労力を減らす。
  2. 新しく購入する際も、それが本当に必要か熟考した上で購入する。これにより、時間・労力を奪う不要なモノが生活に入ってくるのを防ぐ。
  3. 上の 1 と 2 を実践した上で自分の生活の中に入るものを大切に永く使う。

ということを推奨しているように理解しました。

これを機に改めて自分の身の回りの物を見直し、保管しているのにずっと使ってない品などは処分しました。その結果、生活スペースが全体的にすっきりして使いやすくなり、また、何か新しく購入しようと思い立った際も「これはまた程なく処分する対象にならないだろうか」と考える習慣が身につき、以前より買い物自体も減りました。

職業病なのか、「この内容を英語に翻訳するとしたら、どのように訳すだろうか」と考えながら本を読む習慣があります。
これらの本を読んだ際も、特に英訳に悩みそうな表現がありました。

それは、「モノ」です。

日本語の魅力でもあり(翻訳者にとって)困難な点は、漢字、ひらがな、カタカナという 3 種類の表記法があり、どれを用いるかによってニュアンスが変わることです。
「物」「もの」「モノ」・・・和英辞書を引いてもこの違いを的確に表す単語はありません。

言語学( Linguistics )では、単語のもつ意味を表す際に一般に対立すると考えられる概念を用います。
例えば、「女性( female )」と「男性( male )」が対立する概念と考え、

男=[+ male 、− female ]
女=[− male 、+ female ]
人=[− male 、− female ]あるいは[+ male 、− female ]

と表すことができます。

「物」「もの」「モノ」の違いはいろいろあると思いますが、「主観( subjective )」と「客観( objective )」が一つの違いであると考えます。また、「肯定的( positive )」と「否定的( negative )」もあるかと思います。つまり、その言葉を使う人が個人的な思いや感情を込めているかどうか、込めているとしたらどんな思いや感情なのか、です。

では、「物」「もの」「モノ」の場合はどうなのかというと、人それぞれ異なるかもしれませんが、私の場合は、

物=[− subjective 、+ objective ]かつ[− positive 、− negative ]
もの=[+ subjective 、− objective ]かつ[+ positive 、− negative ]
モノ=[+ subjective 、− objective ]かつ[− positive 、+ negative ]

になるように思います。
つまり、「物」(そこに存在している対象)を、「もの」(私にとって必要な、価値の高い対象)と「モノ」(私にとって必要ない、価値の低い対象)とに仕分けることになります。
「もの」と「モノ」を分けるのは、私個人の価値観や置かれた状況で、他人にとってはガラクタのような「モノ」でも、私にとっては大切な「もの」である可能性もあります。
大切なことは、「物」を「もの」と「モノ」とに仕分ける作業の中で、流行に流されたり他人の価値観を押し付けられたりするのではなく、立ち止まって自分自身の声に耳を傾けることなのかもしれません。


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