翻訳家によるコラム「“ as the case may be ” 」



法律・契約書コラム

法律・契約書コラム一覧へ戻る

2010/09/27
“ as the case may be ”

契約書翻訳、法律文書翻訳担当の岡田です。

今回は“ as the case may be ”について説明します。

“ as the case may be ”は一般的に「場合に応じて」などと訳されますが、具体的な意味を説明しますので、以下の例文を見てください。

(1)
“ If either ABC or XYZ changes its address, ABC or XYZ, as the case may be, shall give notice thereof to the other party. ”

「 ABC または XYZ が、自己の住所を変更する場合、場合に応じて ABC または XYZ は、相手方当事者に対してその旨を通知する。」

(2)
“ In the event that ABC notifies XYZ of any infringement or threatened infringement, XYZ shall take all necessary steps to prevent such infringement or threatened infringement, as the case may be. ”

「 ABC が XYZ に対して、権利侵害またはその恐れを通知した場合、 XYZ は、場合に応じて、権利侵害またはその恐れを防ぐために必要なすべての措置を講じるものとする。」

それぞれの例文を更に噛み砕いて翻訳すると、それぞれ以下のようになります。

(1)
「 ABC または XYZ が、自己の住所を変更する場合、 ABC が変更する場合は ABC がその相手方当事者である XYZ に対してそのことを通知し、 XYZ が変更する場合は XYZ がその相手方当事者である ABC に対してそのことを通知する。」

(2)
「 ABC が XYZ に対して、権利侵害または権利侵害の恐れを通知した場合、 XYZ は、権利侵害の場合は権利侵害を防ぐために、権利侵害の恐れの場合は権利侵害の恐れを防ぐために、必要なすべての措置を講じるものとする。」

つまり、“ as the case may be ”は、前提が A (( 1 )では、「 ABC 」、例文( 2 )では、「 権利侵害 」 )の場合は A として、前提が B (( 1 )では、「 XYZ 」、例文( 2 )では、「 権利侵害の恐れ 」 )の場合は B として、それぞれ前提に応じて1つの文を読み分けてくださいという意味です。

しかし、以下の例文のように用いられる場合もあります。

(3)
“ In such case, ABC may respond either orally or in writing, as the case may be. ”

「その場合、 ABC は、場合に応じて、口頭または書面で回答することができる。」

上記の例文( 1 )と( 2 )と異なり、前提となるものはなく、単に取りうる選択肢として「口頭」または「書面」ということですので、“ as the case may be ” 「場合に応じて」はなくてもいいということになります。しかし、これは英語で書かれた法律文の特徴である「くどさ」を反映するものであり、こうした例はよく見られます。

それでは、日英の翻訳の場合はどうでしょうか。民法の規定の翻訳例を見てみましょう(例文は、実際の民法の規定( 20 条 4 項)について、わかりやすいように説明に不要な部分を省略したものです。)。

(4)
「制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は被補助人に対しては、その保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。」

“ The person who is the counterparty to a person with limited capacity may issue a notice to any person under curatorship, or to any person under assistance which demands that he/she should obtain the ratification of his/her curator or assistant, as the case may be. ”

上記の例文では、日本語に“ as the case may be ”に相当する直接的な表現がないにもかかわらず、英訳には “ as the case may be ”が用いられています。その理由は、この民法の規定の趣旨が以下のようなものだからです。

「制限行為能力者である被保佐人や被補助人の相手方は、制限行為能力者が被保佐人の場合は、被保佐人に対してその保佐人の追認を得るように催告をすることが可能であり、制限行為能力者が被補助人の場合は、被補助人に対してその補助人の追認を得るように催告をすることができる。」

つまり、前提が「被保佐人」の場合は「被保佐人」に対応する「保佐人」として、前提が「被補助人」の場合は「被補助人」に対応する「補助人」として、 1 つの文を読み分けるということです。民法の知識がないとわかりづらいかもしれないので、図に示すと以下のようになります。

制限行為能力者


余談になりますが、それであれば、上記の事項を原文である民法の規定に反映するために、以下のように修正することが必要になりますが、そうはならないでしょうね。

「制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は被補助人に対しては、 それぞれ その保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。」


法律・契約書コラム一覧へ戻る